妻、ロザリンの父親は若い頃、家族を連れてイギリスからオーストラリア、アメリカ |
と夢を求めて冒険の旅に出ました。最終的に技術者としてアメリカで成功しました |
が、母親がリュウマチで車椅子生活を宣告され、結局福祉の行き届いた母国イギリ |
スに戻る決心をしたそうです。当時「ゆりかごから墓場まで」の魅力的な標語に誘 |
われて、多くの移民が増えたイギリスの福祉とは一体どんなものだったのでしょう。 |
それは日本を出るに当たり、まず英国大使館に行った時のことです。ロザリンは |
2歳までしかイギリスにいませんでしたが、出生地主義のおかげで配偶者である私 |
まで永住権を取ることができたのにまず驚きました。そのおかげでイギリス滞在中、 |
一番その恩恵を受けてありがたかったのは、NHSと呼ばれる国の医療サービスで |
す。なんと、永住権のある我々はイギリスに居住する時点で、すべての医療費が |
無料となりました。 |
また高齢となった時に財産がなくても、無料で何らかの施設に即入居できるのも |
大きな魅力のひとつでしょう。ところが少しでも財産のある人は自己負担が必要に |
なるというのもイギリスらしいところです。自己負担によってサービスがいくらか |
でも良くなるのかと聞いてみましたら「何も変わりゃしない」という不服そうな返 |
事が返ってきました。これは何がなんでも民主主義の公平性から外れているため、 |
多少の財産を持った人たちの間では不満の原因になっているそうです。もちろん途 |
中でお金がなくなっても追い出されることはなく、はじめから無料の人と同じ立場 |
になるだけです。ということは、低所得者はお金があってもなくても最後は平等に |
一文無しになる、というのがイギリス流の公平性というわけなのでしょうか。 |
空家が出るほど高齢者の住居があり余っているというのは、常に入居待ちの人が |
あふれているわが国の状況から見ればうらやましい限りです。しかし皮肉なことに、 |
過剰とも言える福祉が国の経済に必ずしもいい影響を与えているわけではないこと |
を気づかせたのは、英国病といわれた70年代のインフレ不況でしょう。努力しな |
くても心配の無い老後を迎えられるという社会は、人々から活力を奪ってしまうこ |
とになるとも言えるのです。80年代のサッチャー政権時代に大幅な民営化政策で |
福祉の見直しがなされました。NHSについても現在のところ対応を検討中です。い |
まや福祉先進国の座を降りたと言われるイギリスですが、まだまだ多くの懐深さを |
持った国であると感じるところがあります。 |
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